旅の記憶
※画像はイメージです、本件には関係が薄い(?)です

旅の朝は早い。

びっしりと水滴がついたフライシートに触れないようにテントを這い出すと、両手を伸ばして大きく伸びをうつ。

俺は手にしている水を入れたペットボトルから一口水を含み、モゴモゴ&ガラガラうがいをして飲み込んだ。

昨夜はあまり周辺のリサーチをしないでテントを張ってしまったが、海岸へは草に覆われた斜面を直接降りなくても良さそうだ・・・すぐ近くにコンクリート製の立派な階段がついていた。

錆び付いた手すりには海鳥が留まった際の置き土産であろう白い汚れがべっとり付いて、周囲に潮臭さとは別の生臭さを撒き散らしている。

階段を降りるとコンクリート製の崩れかけた防波堤と消波ブロック、そしてその先にいくつもの潮溜まりと白波を砕く岩場が見えた。

「さて、何か居るかな・・・」

磯はいろいろな意味で期待出来る・・・主に狩猟本能や満腹中枢を刺激するに足るという意味で、だ。

俺は注意深く岩場に降りると、普段水に浸かっている消波ブロックや岩の表面を探った。

「いたいた・・・」

思わず見る人が一様に引くという邪悪な笑みがこぼれる。

放射状の模様が美しいマツバガイをはじめとするカサガイの仲間達、日陰に回って黒いベーゴマ状の巻貝や大型のフジツボ類だ。

愛用の鉈でもいいんだが・・・見た目のインパクトを最小にすべく、ウエストポーチから初代レザーマンツールナイフを取り出す。

岩と貝の間にマイナスドライバーを突っ込んで起こす、たたんだツールナイフをフジツボに横から当てて岩で叩く、などの極めて紳士的な採取法で獲物を集めてはカップ麺の空容器に入れる。


ある程度磯玉を集めたら水の綺麗な潮溜まりで軽く洗顔を済ませ、今度は水中の様子を注意深く観察する。

下が砂地で岩がある場所をよく見ていると、一定のリズムで砂がふぅっと巻き上がる場所がある。

(やった!タコだ!)

俺はいそいそと靴と靴下を脱ぐと、潮溜まりに足を踏み入れた。

石を積んで周りを囲うのもいいが、砂を周りから寄せていってタコが泳げる空間を前以て極力狭くするのが捕獲のポイントだ・・・テストにゃ出ないが役には立つぞ?

「くっそ・・・網持ってくりゃ良かったな・・・」

今更過ぎる愚痴をこぼしながら、足を使って岩の周囲の砂を集めて外堀を埋める。

最後に両手をかけてゆっくりと岩を起こすと、岩と砂との隙間に隠れていたタコが飛び出・・・そうとして砂に乗り上げてもがいていた。

人類の英知を見せ付けるような勝利、孔明もビックリの策だ。

思いのほか沢山の収穫を得て邪悪な笑みが止まらないが、必要以上に磯を荒らすのは自然環境によろしくないので、漂着物の発泡スチロールの箱に海水を汲んで獲物を移しテントに戻る。


腕時計を見ると午前7時までまだ少し間があった。

俺はテントのフライシートを外すと地面に付けない様にバサバサと両手で叩き、水滴を飛ばすとなるべく陽が当たるようにバイクに掛けた。

テント自体は自立するので、四隅のペグだけ外してテントの形のままバイクに立てかけるようにして底を乾かす。

寝袋は・・・羽毛製なので帰ったら陰干しするから、今はそのまま加圧袋に入れてザックの一番底に押し込んでおこう。

手早く撤収準備を済ませた所で朝食の準備に入る。

貝類は全部海水で茹でるのが一番手軽な食べ方だが、サザエやニシの様な内臓に刺激的な味がある種類が入っていると全てが画一的に不味くなるという唯一かつ致命的な欠陥があるから却下。

焼くのも硬くなるので却下・・・そもそも楽して美味しいのは果物だけだ。

まぁ、野外調理もキャンプの醍醐味の一つだし、ここは手間を掛けて充分に楽しんでいこう。

俺は岩場に戻ると石を並べて簡単な竈を組むと、枯れ草と乾いた流木を使って火を起こす。

その上に長めのペグを2本渡し、お気に入りのホットンのアルミ鍋に海水を入れて火に掛けた。

カサガイ類は内臓の苦味と消化器官の一部に珪素質を含むので、親指の爪を使って貝殻から剥がしたらこれらを千切りとって海水で洗う。

フジツボと磯玉類、タコは沸かした海水で一度茹でてから再び海水で洗う。

茹でたフジツボは頭を押すと後ろからぽこっと綺麗に外れるので、硬い爪(入り口の殻)を取っておく。

磯玉は苦い奴や辛い奴が混じってないか茹でる前にチェックしてあるので、ツールナイフのピックを使って中身だけ抜いて蓋を外しておく・・・心配だったらこのときに内臓を取って身だけにしておくといい。

タコは頭を引き抜いて、墨袋を含む内臓と口吻を取る。

後はナイフで全部を1cm角程度に細切れにして、真水にお弁当の付属品である醤油の小袋を溶いたもので茹でる。

沸騰したらアルファ米を投入して蓋をし、鍋を火から下ろして待つだけだ。

(貝類の磯臭さが苦手だったら練り生姜のチューブでも持っていって入れれば良い)


「ウホッ!いいご飯・・・いただきまーす!」

割り箸を親指に挟んで手を合わせる。

駄目だと言われてもついやってしまう「拝み箸」には食物に対する根源的な尊敬の念が現れている気がするのは俺だけだろうか?

額に汗しながら鍋を抱えるようにして約2合の「磯の幸尽くし炊き込みご飯風」を食べる。

旨い!

なにしろ元手が掛かってないというのが旨さと俺の満足度を激増させているな、うん、最高!

クセの少ない磯玉、火を通すと軟らかくなるカサガイ、実は甲殻類で甘い出汁の出るフジツボ、すべてを包み込むピンクの煮汁の正体・・・タコ。

天才過ぎたな、俺。


残り火に使った割り箸や鍋を拭いたティッシュ、アルファ米の袋を入れてゴミを始末しながらテントやマットを畳んでザックに整理する。

残り少なくなったペットボトルの水を口に含み、うがいした後、飲む。

俺は焚き火に海水を掛け、砂で埋める・・・さぁ、出発だ。


海沿いの道路は陽が高くなる頃には渋滞するので、なるべく移動しやすい内に距離を稼ぎたい。

2stの甲高い音を響かせ、内回りで半島を南下する。

街中で一度コンビニに寄った後は航空自衛隊の駐屯地を右手に見ながら進路は道なりに真西に変わり、人家もまばらな岬へと抜ける。

照りつける陽の光が眩しく、眼を細める・・・アスファルトの照り返しで左手には山の緑、右手には青い海という二色のコントラストを楽しむ余裕が無いのが返す返すも残念だ。

岬の突端近くで街道を離れ、灯台へ寄り道する。

駐車場の一角にバイクを停めると、さっきトイレ休憩に入ったコンビニで買った昼食を持ってこんもりと茂った緑の中の小道を歩いてゆく。

小道は途中からはカーブしながらの細い階段になり、緑の中にちょっとだけ見えている白い建造物にはなかなか近づけない。

同じ千葉の魚見塚展望台もそうだったが、このテの観光地は同じ様な効果・演出の形式なのだと思う。

最後までなかなか先が見えず、急に視界が開けることである種のカタルシスを得るという展開だ・・・まぁ、「展望」って点で全部同じ目的と様式を持つ場所なんだから仕方ないよなと一人で納得する。

視界は兎も角、思ったよりも狭かった灯台の根元に座り込み、既にぬるくなっているスポーツドリンクと一緒に惣菜パンをもそもそと食べる。

仰ぎ見れば青空をバックにそびえ立つ白い灯台の上に、トンビが2・3羽クルクルと旋回していた。

コメント

nophoto
たひざ
2015年8月4日0:54

キャンプツーリング羨ましすぎィ

reijirou
2015年8月4日18:31

あれ?

おひさしぶり・・・ちょw日記が去年から一ミリも進んでないんですけど!

(俺もノーパンからか・・・)


あれから再インストール出来たんでしょうか?気になります・・・

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