これはきのうのはなし
□久々にリアルでの出来事

つい昨日のことなんだが・・・俺の職場にいつも来る老人が唐突にこんなコトを言い出した。



「・・・そういえば一昨日、役所から電話があったのよ」


80を過ぎたばかりの御婦人は思い出したように話し始める


「ほら・・・貴方も知っての通りウチの次男、失踪してるでしょ?」

「ええ・・」


この御婦人の息子さんが「ここ数年実家に寄り付かない」という話は以前に伺った事がある・・・「失踪」というのは大袈裟だが「相手からしか連絡が取れない」という状況をそう呼ぶことについては同意しなくもない。


「・・そうしたらねぇ、あの子どうやら(国民健康)保険料を払い込んでなかったらしくって・・・」


御婦人は口元に手をやってちら、と周囲に眼を走らせると


「3年で15万円ほど不足が出ていたんですって!」


と、囁いた。


「へぇ・・・でも、それってお母さんには支払い義務は無いでしょう?」


俺が返すと、御婦人は眉根を寄せて唇を尖らせて


「・・・って、前に同じようなことがあったときにはそう言ってたんだけどね・・・」

「なんか今度は『(払えるなら)払って欲しい』って言われちゃったのよォ~」


(なんだか雲行きが怪しい話になってきたなぁ)


「でね、振込みかと思ったら『取りに伺います』って言うのよ・・・有難いわねェ」

「・・・!!」


キタ!詐欺キタコレ!!


「で?・・何時取りに来るんだって?」


俺は半分咽るように聞き返した・・・本物の捕り物が見られるチャンスだ!!←不謹慎


「昨日取りに来たわ・・・お電話とは違う方でしたけど、しっかりとした娘さんがいらしたわよ?」

「ッ~・・・」


俺はドッと疲れると同時に犯罪を未然に防げなかった残念感にがっくりと肩を落とした・・・「振り込め詐欺」の検挙に一枚噛めたら、それはそれは面白そうなコトになっただろうに・・・。

でも、待てよ?

この一件で御婦人は犯罪組織にマークされるだろう・・・疑いを持たずに裏も取らない、いや、実際には「取れない」んだが。

こうした人物はマークされ、次々と同様の詐欺の餌食になる・・・少なくとも俺が犯罪組織構成員だったらこうしたカモは放っては置かない。←・・・


「なぁ、●●さん・・・非常に申し上げにくいんだが・・・」


俺の声に漂う空気を感じてか、御婦人は眼を上げてじっとこちらを見つめた。


「・・・俺が思うに、そりゃ『振り込め詐欺』って奴じゃねェかな?」


御夫人の眼に動揺が走る。


「そ・・・ど、どうでしょう・・?でも、確かに役所の領収証を・・・」

「どうかな・・・それが本物かどうかは判らないですよね?」


俺も御夫人も役人じゃない・・・役所の書類は数年毎に(無駄に)形式が変化し、新たな需要(と利権)を生み出すようになっている・・・一目見てそれと区別など出来ない。


「・・・裏を取ってみましょう」


俺は血の気を失った御夫人を背もたれのある椅子へ腰掛けさせ、事務机の電話の受話器を取った。





-----続く

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