【猫の】日常【意趣返し】
「潮も上げて来たな・・・そろそろ引き揚げよう」

俺が少し離れた場所で膝まで水に浸かっている猫に声をかけると、猫は少し顔を上げて太陽を見た。

中天を少し過ぎた場所にあるそれは、時折通過する際に一瞬影を落とす成田発の航空機以外遮るもの無く辺りを分け隔てなくジリジリと照り付けている。

「飯、喰って帰るか?喰わないで帰るか?」

近付いて聞く俺の方に向き直った猫は、「混む前に帰ろう」とだけ答え眩しそうに眼を細めた。

俺は光る波間にそんな猫の姿を見ながら・・・









      ・・・どんよりとのしかかる憂鬱さを隠せなかった。







先週の日曜日は気象庁の入梅宣言も空しく、雲ひとつ無い晴天に恵まれていた。

同じく気象庁の発表する潮時表には「大潮」「干潮11時」とも続く・・・


まぁ、「潮干狩りいつするの?」「今日でしょ!」という状況だ。


ここまで条件が出揃ったら俺的には「行くの?行かないの?」ではなく「・・・どこ行くの?」だ。

前夜、遅くまでFFXIをしていたせいで起床は7時半・・・鴨川へ行くのには少し遅過ぎるから、必然的に行き先は九十九里浜だ。

出掛けに両親から「今日、海へ行くなら帰りにタマネギと大根とブロッコリーを収穫してきて!」と電話が入る・・・エスパーか?俺の両親!?

(完全に行動パターンを読まれている)




10時前に現地近くの俺の実家の畑に着く。

ここには俺の両親が趣味的に行なう農業施設とソレに付随する宿泊施設がある。

(・・・まぁ、プラス方向に最大限の拡大解釈をすれば「別荘」、有体に言えば「作業小屋」である)

ここから海岸までは完全に平野部かつ農村地帯なので見えてはいるが2km弱ある。

俺と猫は小屋に着くと海に入るべく水着に着替えたのだが・・・



「あ・・・」

日焼け止めを塗り終えた猫がセパレートの水着の上にTシャツをかぶり、下を全部脱いだ状態で声を上げた。

「・・・ぱんつ、無い」

いや、履いてきたでしょ?手に持ってるじゃん?

猫は唇を尖らせて抗議する。

「ちがう!・・・水着の下に履くぱんつ、忘れた」

はぁ?・・・ああ、あの黒いちっちゃいアレか!

「あんなの無くても一緒じゃねーの?生地だってあるんだか無いんだか判らん程度じゃんか?」

猫は眼を眇め、馬鹿を視るような顔つきで俺を見つめた・・・


止せよ、穴が開いたらどーすんだよ。



「・・・大違いよ、ズボンをノーパンで履く様なものよ?考えられない!」

まぁ、それもそうか・・・俺はノーパンでデニムを履く不具合を想像して軽く眉間にしわを寄せた。

「じゃあどうする?この小屋にあるかもしれない(恐らくは俺の両親の)下着でも探すか?」

「それこそ”あり得ない”わ・・・」

猫はちょっと嫌そうな顔をしながら答えた。






「解ったわ・・・こうしましょう?」

ややあって猫が言った・・・何か名案が?

猫は無い胸を少し反らせて得意げに続ける。

「あたしは今履いているぱんつをこのまま履いて水着を着るわ!

       そしてあんたが帰りにどこかで私のぱんつを買えばいいのよ!」










「俺が買うのはいいとして・・・ぱんつ買うまではおまえはどうするんだよ?」

猫がはっとした顔をしたのを俺は見逃さない・・・そして猫も俺がにやっと口元に笑みを浮かべたのを見逃さない。

急に猫の眼が眇められ、頬が朱に染まる。

「う・・うるさい、うるさーい!」

「い、いいのよ!海に入るときは自分のぱんつ履くから!だから・・・
       
             海から上がったらあんたのぱんつ貸しなさいよ!」






・・・え?

俺の・・・ですか!?

猫は茹で上がったみたいな顔でTシャツの前を片手で掴み、今更隠しても仕方ないような気がする大事な部分を俺から隠しながら、残る手を俺に突き出してぶんぶん振った。

「そうよ!・・・考えてみたらあんたが私のぱんつを入れ忘れたのが原因じゃない!だからあんたの責任なんだから!」

まぁ、そう言えなくも無い・・・か?



「だからあんたのぱんつは私が帰りに履くの!」






「・・・解ったよ・・・で、俺はどうするんだよ?帰りにぱんつ買うのか?」


猫は急に「国が滅んで王だけ残ったなんて滑稽だわ!」とシータに指摘されたムスカみたいな顔をした。

「あんたのぱんつなんて家に帰ればいくらでもあるじゃない・・・そのまま帰ればいいわ!」

え?そうなの?・・・「ぱんつは滅びない・・・何度でも(よみ)買える!」とか言わないの!?

猫は時折見せる意地悪な顔をして俺に言い放った。

「グダグダ言うなら私は海に入らないわよ?・・・いい?ぱんつを失って海に入るか、ぱんつをまもって海に入らないかの二択よ!!どっちなの?」









・・・俺は観念して何処かのパソコン部部長みたいに力無く呟いた。

「もってけ・・・ドロボー・・・」

猫はにんまりと満足そうな勝利の笑みを浮かべ、俺の手からまだ温かみの残るぱんつを奪うと小屋の玄関に向かった。



「ほらー!急いで行くよー!」



ビーチサンダルに履き替えた猫が呼ぶ声がする。

・・・俺は海パンの紐を締めながら、下半身の一部がその刺激に耐えられるか真剣に悩んでいた。

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