【ル・アハの】Skyrim【日記】
2012年6月20日 日常 コメント (2)
、、、続き。
左手を血の滲んだ包帯でグルグル巻きにした若いブレトンの召喚士は困惑していた、、、。
死霊術の師であるルア・アル・スカベンに手渡された資料のことである。
彼女に「研究に値する」と言われた二冊の本は若い娘が読むような甘いロマンスと悲劇の伝説、そしてその伝説に絡むある死霊術士の日記だった。
「ふぅ、、、何度読みなおしても、な、、、」
正直言ってこういうロマンスは苦手だったし物語の中に隠された寓意やアナグラムを読み解く研究よりも、実際の召喚技術やマジ力の集中や拡散といったパワーコントロールこそが得意分野である、、、つまり実践派なのだ。
「、、、今日はここまでにすっか、、、」
彼は机の上に与えられた資料を置くと椅子を引いて立ち上がり、伸びをした。
その動きに一瞬、ドラウグルが鈍い燐光を放つ虚ろな視線を投げかけたが、すぐに関心を失ったかのように元の姿勢に戻った「、、、この職場環境もどうにかならないものかね?」思わず呟きが洩れる、、、オブリビオンからの召喚生物を使役するのが本職である彼も、古代技術で永遠の生命を吹き込まれているドラウグルは理解が及ばない分、職場の同僚としてもあまり馴染めずに居た。
彼はため息をつきヤレヤレといった風に首を振ると、今度は部屋の奥にあるスロープを歩き出した。
スロープを登った先には、内から洩れる炎のオーラがその姿を薄暗い石室の闇に浮かび上がらせる炎の精霊が佇んでいた。
「フラン、、そろそろ時間だよ?」
若いブレトンの召喚士は炎の精霊に愛しむ様な柔らかい表情で語りかけていた。
彼は書物の様な伝説の二人のロマンスには理解が無かったが、フランに対して抱く感情はたぶん特別なものだと自分自身では理解していた。
彼が9歳のときに親に隠れて読みふけっていた魔導書を参考に初めて呼び出した掌の中の小さな炎、、、また、その後の血の滲む様な鍛錬によって今や自在に呼び出せるようになった炎の精霊は、異郷で暮らす彼とその家族を迫害の対象としてしか見ていないノルドの連中と違い、互いに信頼しあえる特別な存在だった。
フランと呼ばれた炎の精霊は幽かに頷くと、片手をそっと彼に伸ばした。
オブリビオンより呼び出された精霊たちは、どんなに強力な術者の召喚であってもある程度の時間を経過すると消滅してしまう、、、いや、正確には消滅するのではなく異世界と現世を繋ぐ魔力による導路が失われてしまうことで、その姿を保てなくなってしまうのだ。
ただ、彼等の場合は特別だった、、、フランは召喚されたまま彼にその身体に直接触れられて魔力の導路を繋ぎなおす。
その儀式の度に指尖を火傷してしまうので彼の左手の指はもう満足に物を掴むこともできなかったが、彼はその痛みさえをも愛おしいと感じていた。
シュ、、カッ!
召喚士は我が目を疑った。
今まさに手を取ろうとしたフランの胸元に一本の金色の矢が深々と突き刺さり、矢の周囲から青白い凍気のオーラが広がって、、、。
「フラン!!」
若いブレトンの召喚士が叫ぶのと、崩れるように膝をついた炎の精霊の身体が内からあふれ出る魔力の奔流に耐え切れず大爆発するのとは同時だった。
黒いローブに身を包んだ召喚士の身体は吹き荒れる炎の嵐に巻き込まれ、一瞬で体表面や四肢の末端が炭化する、、、。
薄れ行く意識の中でフランの声が聴こえる、、、肉体を棄て、オブリビオンでの彼女との再会を確信した彼は、「師匠、、、今ならわか、、、」と呟き、こと切れた。
「ビックリしたなぁ、、、」
「たまにありますよね」
石室の入り口から狙い撃った炎の精霊が突然大爆発し、たまたま近くに居たドラウグルと召喚士を巻き添えにしてしまったのだ。
「、、、地下に居るからな、、、生き埋めとかは勘弁して欲しいぜ」
「次からは呼び出した術者の方を狙ってくださいね、、、」
「うむ、、、気をつけよう」
俺はヘルメットを脱いで、未だに良く聞こえない耳を片手でわしわしと揉みながら隠れていた通路から這い出した。
「他にお出迎えが出てこないところを見ると、扉の奥には聴こえなかったのかね?」
「、、、今のところは大丈夫みたいですね」
俺達は這い出した通路から一旦石橋の下をくぐり、石橋の奥にあるスロープを登って部屋の右奥、、、少し高くなった台座とその真ん中に設置されているレバーのある場所に来た。
爆発により壁奥に置いてあったテーブルや椅子、机の上にあったであろう書類や本の類が辺りに散乱していた。
「、、、?」
俺は散乱する書類の中からタイトルのついていない革紐で綴じてある一冊のノートを拾い上げた。
少し読み進むと(それは決して読みやすいものでは無かったが)それがどうやら「ル・アハ」という女性死霊術士が書いた日記で、伴侶を失った悲しみと狂気から次第にドラウグルの製法の研究に没頭してゆくさまが脈絡の無い文章で書き綴られていた。
俺はざっと飛ばし読みしていったなかで最後の方のページに思わず眼の留まる記述を見つけた、、、ホルゲールだと、、?
「フョリとホルゲール」という伝説を基にした物語は俺も読んだことがある。
部族間の戦争中に敵同士として実力伯仲の男女が出会い、互いに認め合い信頼し愛し合うようになるというラブロマンスだ、、、だが、確か最後は一方を助けるために犠牲になった女性を悼み、折角助かった男が来世での再会を願い自害するという内容だ。
「、、、報われない話ですね、、、」
粗筋を語って聞かせた嫁の感想である。
「ああ、、、助けた方もきっとソブンガルデでガッカリしたろうな」
戦いにおいて勇敢だった戦士はノルド伝説の楽園たるソブンガルデに召され、誇り高きその魂は永遠に生き続ける、、、しかし、卑怯な振る舞いや騙し討ちなど戦士の魂を汚すような行為に手を染めるものには決して楽園の扉は開かない。
俺の見たところ気高きフョリの愛と献身は戦士としての評価とも相まってソブンガルデ行きは確実だろうが、ホルゲールの行為はノルド戦士としても部族を率いる首長としてもどうかと思うね、、、まぁ、暗殺者で盗賊の俺が言えた義理じゃないけど、な。
「、、、で、何かわかりましたか?」
「うむ、、、」
断片的な情報の上に比喩表現や暗示が多過ぎて読み辛い狂人日記だが、最終的には「ホルゲールに召喚され」てアンデッドを使い土に埋もれて行方がわからなくなっていた古墳を発掘し、何らかの取引か交換条件を経て「ドラウグルを使役」するようになったらしい。
「ホルゲールに呼ばれて、、、って文字通りの意味なのかしら?」
リディアが首を傾げる。
「だって、、、何世紀も前に死んでしまっているんでしょう?」
「ソレを言ったら始まらないさ、、、動く死体が問答無用で襲い掛かってくるこの世界にどんな常識を求めてるんだ?」
嫁は隣で首をすくめ、ちろっと舌を出して見せた。
「こういう超常の世で一般論というのもヘンだが、ル・アハとホルゲールは共に伴侶を失い悲嘆と狂気の果てに合い通じるものがあったのかも知れんな」
日記のなかでル・アハはドラウグルの製法に触れている、、、死体の鮮度を保つ技法に優れている古代ノルド人の知恵や死後の復活について特に熱心に調べていたようだ。
、、、これは俺の憶測に過ぎないが、ホルゲールは愛するフョリと共に現世に復活する手段を求め、似たような境遇にある強力な術者に協力を求めると同時に見返りをも示したのではないだろうか?
「、、、一応、話の筋は通ってますね、、、」
「そうと決まったワケじゃないさ、、、可能性のひとつって奴だ」
俺は日記を背負い袋に仕舞いこむとレバーと石柱を調べてみることにした。
今までの経験からすれば明らかにトラップが仕掛けてある、、、事実部屋の奥の石壁には散々痛い目を見てきた矢の飛び出す穴が無数にある。
「これは4本の石柱を定められた組み合わせに揃えた上でレバーを引く必要があるな、、、」
「、、、とすると何処か近くにヒントって言うか答えが、、、」
ふと部屋奥の壁の蔓草が気になって引き剥がしてみる、、、よし!これか、、!
「リディア!上に登って石柱を回してくれないか?」
「はい」
嫁が石柱の所に着いたのを確認して指示を出す。
「いくぞ?先ずそいつはトリ、次がヘビ、、、」
次々と石柱を回転させて奥の壁際に隠された「正解」に合わせてゆく。
「、、、そうだ、そして最後がまたヘビ」
嫁が最後の一本を回し終えるとそこで待つように声をかけ、俺は穴の開いた壁の前にしゃがみこんでレバーを狙って弓を引いた。
カッ!
金色の矢がレバーの先端部分に当たって弾かれ、、、同時にレバーが向こう側に倒れ、キリキリキリ、、、と何かを巻き上げるような音がして俺の居る場所からは正面に見える石橋の先の格子戸が開いた。
「上手くいきましたね」
スロープを降りてきた嫁は壁際の荷物を持って傍にやってきた。
俺は荷物を受け取るとそれを肩にかけ、石橋の先、、、恐らくは伝説のフョリとホルゲールが眠る古代の墳墓へと向かった。
格子戸の先は観音開きの大きな鉄扉だった。
扉の上にはプレートが貼り付けてあり、そこには「アンシルヴァンドの埋葬室」と読める、、、まぁ、予想していたとはいえ本当に古代の王墓とは、な、、、。
石造りの埋葬室に足を踏み入れると、何処からとも無くくぐもった女の声が遺跡に響き渡った。
死んだ、、、死んだ夫の恨み、、、恨みを晴らしてやるッ!
遺跡の奥から青白い光が流れ込み、そこかしこでドラウグル達が目を覚ます。
俺と嫁はもう待ってなど居ない、、、最初からそのつもりならやることは決まっているのだ。
俺は視界に入った死体を全て撃ち抜き、ほとんどのドラウグル達は起き上がることなく棺の中に崩れ落ちた。
背中を護るのは無論嫁の仕事だ、、、彼女に必要性を認められればソブンガルデ逝きの片道切符をもらったも同然だから、な。
二人で次々と襲い掛かるドラウグルを片付けながらほぼ一本道を遺跡の奥へと突き進み、何度目かのトラップ通路を走り抜けると松明や篝火がそこかしこに設置された高い天井のホールに出た。
早速警備に当たっていた二体のドラウグルに発見されるが、俺の方に向かって来る途中で床にあったスイッチを作動させてしまい、突然床の穴から吹き上がった炎によって焼死してしまう、、、なんだか憐れになってきたな、、、。
ホールの奥を見ると左手の壁に沿って二階への階段があり、一階の突き当りには2つの玉座と8つの黒い棺が設置されており、玉座の間の祭壇にはよく見ると鍵のようなものが納めてある。
俺と嫁は顔を見合わせた。
「、、、取ったらバクン!、、だな?」
「取ったらバクン!ですね、、、」
祭壇から鍵を取り上げた途端、周囲の棺が「バクン!」と開いてドラウグル達に囲まれてフルボッコにされるだろうね?という確認である。
俺達は少し相談し、安全を確認してから嫁は二階への階段に登った。
俺は祭壇の周りを注意深く観察し、他のトラップが認められないのを確かめると、いきなり鍵を奪って入り口の方へ逃げ出した!
バクン!、、バクン!バクンッ!
一斉に棺の蓋が跳ね上がり、ドラウグルが起き上がる!
ォガァッ!
グォガァッ!
叫び声を上げて俺を追いかけてくるドラウグルを部屋の中央付近に誘導すると、ドラウグル達は床のスイッチを踏んで次々と炎に包まれた。
生き残ったドラウグルには階段の上からリディアが弓を射掛け、次々と止めを刺してゆく、、、ほんの一瞬の戦いだった。
二階には奥に木製の扉があり、その先には掘削作業中のドラウグルとダークエルフの召喚士が居たが、気付かれること無く射殺する、、、問答無用で押し通る俺達こそ悪鬼の如き侵略者だよな、、、。
地下に流れる小川を越えて道なりに坂道を登ると、また木製の扉が、、、その先は先程の広いホールの三階部分、、、と言っても人一人がやっと通れる幅の手すりも何も無い通路だ。
(、、、落ちたら無事では済まんな、、、)
注意深く細い通路を進む。
丁度真ん中の辺りにフットスイッチが設置してあるのが見えた、、、そして天井にはこれ見よがしに無数のトゲが生えている格子が付いている。
俺と嫁は通路でお互いの顔を見合わせた。
「、、、どうしたモンかね?、、、ありゃどう見ても踏んだら横薙ぎにされんぞ?」
「、、、ですよね、、、通路の縁にでもぶら下がって、、」
その時突然!通路の反対側に見えていた鉄扉が開きグレートソードを構えたドラウグル・デスロードが雄叫びを上げてまっすぐこちらに走りこんできた!!
「!!」
「ちょっ!?」
他に逃げ場の無い細い通路での奇襲攻撃に思わず身構えるが、引くも避けるもかなわない、、、どうするッ!?
ォグォアァッ!!
(大剣を横薙ぎに振るわれたらマズい!)
カチャ!
ブゥン、、ガッ!!
ゴォッ!?アアァァァァァァァ・・・
グシャッ・・・
フットスイッチを思いっきり踏んでしまったデスロードは、大剣を構えたまま天井から振り子の様に横薙ぎに降りてきた槍衾に上半身を払われて、はるか階下まで落下して絶命してしまった、、、、。
俺達は細い通路から階下を覗き込んでため息をついた。
「、、、屈んで通れば大丈夫みたいだな?」
「ええ、身をもって証明してくれた彼に感謝しましょう」
鉄扉の先には下りの階段が続き、その奥には再びノルドの埋葬棚が並んでいる暗い石室が広がっているのが見える、、、と
「そこに居るのは誰!?」
突然、女の声が響いた、、、しまった!こっちが明るいから影で見つかったか!
階段の下は十字路になっていたので、その角の部分に誰か居たらしい、、、ええい!ままよ!!
俺と嫁は武器を構えたまま階段を駆け下り、角を曲がった。
「ここに来るべきじゃなかったわね!」
そう叫んだ女は死霊術士だった。
彼女は手近な古代ノルドの死体を操り、襲い掛かってきたが、、、嫁のバッシュ!一発で膝をつき、俺がノルドの死体を撃ち抜くのと同時に止めを刺されていた、、、。
何か手がかりは無いかと死霊術士を調べようと近づいたときだ。
突然!またくぐもった女の声が石室全体をびりびりと振動させるように響き渡った!!
、、、彼は、、、彼はもう、生き返らない、、、ッ!
悲嘆にくれる、、、怨嗟のような響きだ、、、。
、、だけど、、、だから、、、軍を挙げてこの汚辱に報いてやるッ、、!!
「軍だ、、と!?」
「!?」
、、、そして埋葬室の奥からガチャガチャと金属鎧のこすれあう音が次第に迫って来るのだった。
、、、もう少し続くんじゃYO
左手を血の滲んだ包帯でグルグル巻きにした若いブレトンの召喚士は困惑していた、、、。
死霊術の師であるルア・アル・スカベンに手渡された資料のことである。
彼女に「研究に値する」と言われた二冊の本は若い娘が読むような甘いロマンスと悲劇の伝説、そしてその伝説に絡むある死霊術士の日記だった。
「ふぅ、、、何度読みなおしても、な、、、」
正直言ってこういうロマンスは苦手だったし物語の中に隠された寓意やアナグラムを読み解く研究よりも、実際の召喚技術やマジ力の集中や拡散といったパワーコントロールこそが得意分野である、、、つまり実践派なのだ。
「、、、今日はここまでにすっか、、、」
彼は机の上に与えられた資料を置くと椅子を引いて立ち上がり、伸びをした。
その動きに一瞬、ドラウグルが鈍い燐光を放つ虚ろな視線を投げかけたが、すぐに関心を失ったかのように元の姿勢に戻った「、、、この職場環境もどうにかならないものかね?」思わず呟きが洩れる、、、オブリビオンからの召喚生物を使役するのが本職である彼も、古代技術で永遠の生命を吹き込まれているドラウグルは理解が及ばない分、職場の同僚としてもあまり馴染めずに居た。
彼はため息をつきヤレヤレといった風に首を振ると、今度は部屋の奥にあるスロープを歩き出した。
スロープを登った先には、内から洩れる炎のオーラがその姿を薄暗い石室の闇に浮かび上がらせる炎の精霊が佇んでいた。
「フラン、、そろそろ時間だよ?」
若いブレトンの召喚士は炎の精霊に愛しむ様な柔らかい表情で語りかけていた。
彼は書物の様な伝説の二人のロマンスには理解が無かったが、フランに対して抱く感情はたぶん特別なものだと自分自身では理解していた。
彼が9歳のときに親に隠れて読みふけっていた魔導書を参考に初めて呼び出した掌の中の小さな炎、、、また、その後の血の滲む様な鍛錬によって今や自在に呼び出せるようになった炎の精霊は、異郷で暮らす彼とその家族を迫害の対象としてしか見ていないノルドの連中と違い、互いに信頼しあえる特別な存在だった。
フランと呼ばれた炎の精霊は幽かに頷くと、片手をそっと彼に伸ばした。
オブリビオンより呼び出された精霊たちは、どんなに強力な術者の召喚であってもある程度の時間を経過すると消滅してしまう、、、いや、正確には消滅するのではなく異世界と現世を繋ぐ魔力による導路が失われてしまうことで、その姿を保てなくなってしまうのだ。
ただ、彼等の場合は特別だった、、、フランは召喚されたまま彼にその身体に直接触れられて魔力の導路を繋ぎなおす。
その儀式の度に指尖を火傷してしまうので彼の左手の指はもう満足に物を掴むこともできなかったが、彼はその痛みさえをも愛おしいと感じていた。
シュ、、カッ!
召喚士は我が目を疑った。
今まさに手を取ろうとしたフランの胸元に一本の金色の矢が深々と突き刺さり、矢の周囲から青白い凍気のオーラが広がって、、、。
「フラン!!」
若いブレトンの召喚士が叫ぶのと、崩れるように膝をついた炎の精霊の身体が内からあふれ出る魔力の奔流に耐え切れず大爆発するのとは同時だった。
黒いローブに身を包んだ召喚士の身体は吹き荒れる炎の嵐に巻き込まれ、一瞬で体表面や四肢の末端が炭化する、、、。
薄れ行く意識の中でフランの声が聴こえる、、、肉体を棄て、オブリビオンでの彼女との再会を確信した彼は、「師匠、、、今ならわか、、、」と呟き、こと切れた。
「ビックリしたなぁ、、、」
「たまにありますよね」
石室の入り口から狙い撃った炎の精霊が突然大爆発し、たまたま近くに居たドラウグルと召喚士を巻き添えにしてしまったのだ。
「、、、地下に居るからな、、、生き埋めとかは勘弁して欲しいぜ」
「次からは呼び出した術者の方を狙ってくださいね、、、」
「うむ、、、気をつけよう」
俺はヘルメットを脱いで、未だに良く聞こえない耳を片手でわしわしと揉みながら隠れていた通路から這い出した。
「他にお出迎えが出てこないところを見ると、扉の奥には聴こえなかったのかね?」
「、、、今のところは大丈夫みたいですね」
俺達は這い出した通路から一旦石橋の下をくぐり、石橋の奥にあるスロープを登って部屋の右奥、、、少し高くなった台座とその真ん中に設置されているレバーのある場所に来た。
爆発により壁奥に置いてあったテーブルや椅子、机の上にあったであろう書類や本の類が辺りに散乱していた。
「、、、?」
俺は散乱する書類の中からタイトルのついていない革紐で綴じてある一冊のノートを拾い上げた。
少し読み進むと(それは決して読みやすいものでは無かったが)それがどうやら「ル・アハ」という女性死霊術士が書いた日記で、伴侶を失った悲しみと狂気から次第にドラウグルの製法の研究に没頭してゆくさまが脈絡の無い文章で書き綴られていた。
俺はざっと飛ばし読みしていったなかで最後の方のページに思わず眼の留まる記述を見つけた、、、ホルゲールだと、、?
「フョリとホルゲール」という伝説を基にした物語は俺も読んだことがある。
部族間の戦争中に敵同士として実力伯仲の男女が出会い、互いに認め合い信頼し愛し合うようになるというラブロマンスだ、、、だが、確か最後は一方を助けるために犠牲になった女性を悼み、折角助かった男が来世での再会を願い自害するという内容だ。
「、、、報われない話ですね、、、」
粗筋を語って聞かせた嫁の感想である。
「ああ、、、助けた方もきっとソブンガルデでガッカリしたろうな」
戦いにおいて勇敢だった戦士はノルド伝説の楽園たるソブンガルデに召され、誇り高きその魂は永遠に生き続ける、、、しかし、卑怯な振る舞いや騙し討ちなど戦士の魂を汚すような行為に手を染めるものには決して楽園の扉は開かない。
俺の見たところ気高きフョリの愛と献身は戦士としての評価とも相まってソブンガルデ行きは確実だろうが、ホルゲールの行為はノルド戦士としても部族を率いる首長としてもどうかと思うね、、、まぁ、暗殺者で盗賊の俺が言えた義理じゃないけど、な。
「、、、で、何かわかりましたか?」
「うむ、、、」
断片的な情報の上に比喩表現や暗示が多過ぎて読み辛い狂人日記だが、最終的には「ホルゲールに召喚され」てアンデッドを使い土に埋もれて行方がわからなくなっていた古墳を発掘し、何らかの取引か交換条件を経て「ドラウグルを使役」するようになったらしい。
「ホルゲールに呼ばれて、、、って文字通りの意味なのかしら?」
リディアが首を傾げる。
「だって、、、何世紀も前に死んでしまっているんでしょう?」
「ソレを言ったら始まらないさ、、、動く死体が問答無用で襲い掛かってくるこの世界にどんな常識を求めてるんだ?」
嫁は隣で首をすくめ、ちろっと舌を出して見せた。
「こういう超常の世で一般論というのもヘンだが、ル・アハとホルゲールは共に伴侶を失い悲嘆と狂気の果てに合い通じるものがあったのかも知れんな」
日記のなかでル・アハはドラウグルの製法に触れている、、、死体の鮮度を保つ技法に優れている古代ノルド人の知恵や死後の復活について特に熱心に調べていたようだ。
、、、これは俺の憶測に過ぎないが、ホルゲールは愛するフョリと共に現世に復活する手段を求め、似たような境遇にある強力な術者に協力を求めると同時に見返りをも示したのではないだろうか?
「、、、一応、話の筋は通ってますね、、、」
「そうと決まったワケじゃないさ、、、可能性のひとつって奴だ」
俺は日記を背負い袋に仕舞いこむとレバーと石柱を調べてみることにした。
今までの経験からすれば明らかにトラップが仕掛けてある、、、事実部屋の奥の石壁には散々痛い目を見てきた矢の飛び出す穴が無数にある。
「これは4本の石柱を定められた組み合わせに揃えた上でレバーを引く必要があるな、、、」
「、、、とすると何処か近くにヒントって言うか答えが、、、」
ふと部屋奥の壁の蔓草が気になって引き剥がしてみる、、、よし!これか、、!
「リディア!上に登って石柱を回してくれないか?」
「はい」
嫁が石柱の所に着いたのを確認して指示を出す。
「いくぞ?先ずそいつはトリ、次がヘビ、、、」
次々と石柱を回転させて奥の壁際に隠された「正解」に合わせてゆく。
「、、、そうだ、そして最後がまたヘビ」
嫁が最後の一本を回し終えるとそこで待つように声をかけ、俺は穴の開いた壁の前にしゃがみこんでレバーを狙って弓を引いた。
カッ!
金色の矢がレバーの先端部分に当たって弾かれ、、、同時にレバーが向こう側に倒れ、キリキリキリ、、、と何かを巻き上げるような音がして俺の居る場所からは正面に見える石橋の先の格子戸が開いた。
「上手くいきましたね」
スロープを降りてきた嫁は壁際の荷物を持って傍にやってきた。
俺は荷物を受け取るとそれを肩にかけ、石橋の先、、、恐らくは伝説のフョリとホルゲールが眠る古代の墳墓へと向かった。
格子戸の先は観音開きの大きな鉄扉だった。
扉の上にはプレートが貼り付けてあり、そこには「アンシルヴァンドの埋葬室」と読める、、、まぁ、予想していたとはいえ本当に古代の王墓とは、な、、、。
石造りの埋葬室に足を踏み入れると、何処からとも無くくぐもった女の声が遺跡に響き渡った。
死んだ、、、死んだ夫の恨み、、、恨みを晴らしてやるッ!
遺跡の奥から青白い光が流れ込み、そこかしこでドラウグル達が目を覚ます。
俺と嫁はもう待ってなど居ない、、、最初からそのつもりならやることは決まっているのだ。
俺は視界に入った死体を全て撃ち抜き、ほとんどのドラウグル達は起き上がることなく棺の中に崩れ落ちた。
背中を護るのは無論嫁の仕事だ、、、彼女に必要性を認められればソブンガルデ逝きの片道切符をもらったも同然だから、な。
二人で次々と襲い掛かるドラウグルを片付けながらほぼ一本道を遺跡の奥へと突き進み、何度目かのトラップ通路を走り抜けると松明や篝火がそこかしこに設置された高い天井のホールに出た。
早速警備に当たっていた二体のドラウグルに発見されるが、俺の方に向かって来る途中で床にあったスイッチを作動させてしまい、突然床の穴から吹き上がった炎によって焼死してしまう、、、なんだか憐れになってきたな、、、。
ホールの奥を見ると左手の壁に沿って二階への階段があり、一階の突き当りには2つの玉座と8つの黒い棺が設置されており、玉座の間の祭壇にはよく見ると鍵のようなものが納めてある。
俺と嫁は顔を見合わせた。
「、、、取ったらバクン!、、だな?」
「取ったらバクン!ですね、、、」
祭壇から鍵を取り上げた途端、周囲の棺が「バクン!」と開いてドラウグル達に囲まれてフルボッコにされるだろうね?という確認である。
俺達は少し相談し、安全を確認してから嫁は二階への階段に登った。
俺は祭壇の周りを注意深く観察し、他のトラップが認められないのを確かめると、いきなり鍵を奪って入り口の方へ逃げ出した!
バクン!、、バクン!バクンッ!
一斉に棺の蓋が跳ね上がり、ドラウグルが起き上がる!
ォガァッ!
グォガァッ!
叫び声を上げて俺を追いかけてくるドラウグルを部屋の中央付近に誘導すると、ドラウグル達は床のスイッチを踏んで次々と炎に包まれた。
生き残ったドラウグルには階段の上からリディアが弓を射掛け、次々と止めを刺してゆく、、、ほんの一瞬の戦いだった。
二階には奥に木製の扉があり、その先には掘削作業中のドラウグルとダークエルフの召喚士が居たが、気付かれること無く射殺する、、、問答無用で押し通る俺達こそ悪鬼の如き侵略者だよな、、、。
地下に流れる小川を越えて道なりに坂道を登ると、また木製の扉が、、、その先は先程の広いホールの三階部分、、、と言っても人一人がやっと通れる幅の手すりも何も無い通路だ。
(、、、落ちたら無事では済まんな、、、)
注意深く細い通路を進む。
丁度真ん中の辺りにフットスイッチが設置してあるのが見えた、、、そして天井にはこれ見よがしに無数のトゲが生えている格子が付いている。
俺と嫁は通路でお互いの顔を見合わせた。
「、、、どうしたモンかね?、、、ありゃどう見ても踏んだら横薙ぎにされんぞ?」
「、、、ですよね、、、通路の縁にでもぶら下がって、、」
その時突然!通路の反対側に見えていた鉄扉が開きグレートソードを構えたドラウグル・デスロードが雄叫びを上げてまっすぐこちらに走りこんできた!!
「!!」
「ちょっ!?」
他に逃げ場の無い細い通路での奇襲攻撃に思わず身構えるが、引くも避けるもかなわない、、、どうするッ!?
ォグォアァッ!!
(大剣を横薙ぎに振るわれたらマズい!)
カチャ!
ブゥン、、ガッ!!
ゴォッ!?アアァァァァァァァ・・・
グシャッ・・・
フットスイッチを思いっきり踏んでしまったデスロードは、大剣を構えたまま天井から振り子の様に横薙ぎに降りてきた槍衾に上半身を払われて、はるか階下まで落下して絶命してしまった、、、、。
俺達は細い通路から階下を覗き込んでため息をついた。
「、、、屈んで通れば大丈夫みたいだな?」
「ええ、身をもって証明してくれた彼に感謝しましょう」
鉄扉の先には下りの階段が続き、その奥には再びノルドの埋葬棚が並んでいる暗い石室が広がっているのが見える、、、と
「そこに居るのは誰!?」
突然、女の声が響いた、、、しまった!こっちが明るいから影で見つかったか!
階段の下は十字路になっていたので、その角の部分に誰か居たらしい、、、ええい!ままよ!!
俺と嫁は武器を構えたまま階段を駆け下り、角を曲がった。
「ここに来るべきじゃなかったわね!」
そう叫んだ女は死霊術士だった。
彼女は手近な古代ノルドの死体を操り、襲い掛かってきたが、、、嫁のバッシュ!一発で膝をつき、俺がノルドの死体を撃ち抜くのと同時に止めを刺されていた、、、。
何か手がかりは無いかと死霊術士を調べようと近づいたときだ。
突然!またくぐもった女の声が石室全体をびりびりと振動させるように響き渡った!!
、、、彼は、、、彼はもう、生き返らない、、、ッ!
悲嘆にくれる、、、怨嗟のような響きだ、、、。
、、だけど、、、だから、、、軍を挙げてこの汚辱に報いてやるッ、、!!
「軍だ、、と!?」
「!?」
、、、そして埋葬室の奥からガチャガチャと金属鎧のこすれあう音が次第に迫って来るのだった。
、、、もう少し続くんじゃYO
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ル・アハwだしwwww